【短編小説】ローマの休日

ネット配信でローマの休日を観た。

普段、まったく映画を観ない私ですら鑑賞してしまうくらい、暇な毎日だったから仕方ない。

世間では未知のウイルスが流行してるし、案の定会社はリモートになるし、趣味無し彼氏無しの私がやることといえば食事・掃除・洗濯のルーティン。

 

「はぁ……」

 

ため息から幸せは逃げるとかなんとやら。

それが本当なら私は何回幸せを逃してきたのだろうか。

ローマの休日に出てきたアン王女。
綺麗で可愛くて、でも天真爛漫で好奇心旺盛。その美しさにはスクリーン越しにやられた。

彼女は自分の今までが嫌で逃げ出したのかもしれないけれど、それは結局自分の立場を思い知るだけだったのかもしれないなぁ。

愛した人と一緒になれなかったし、彼女はこのキラキラした休日の思い出を一生大事にして生きていくのだろうか。

あぁ、することが何もないから、映画のキャラに感情移入してしまった。
私らしくない。

そんなことを考えつつ、SNSに「暇すぎて、ローマの休日を観た」と書いた私。

何故かすぐに反応があった。
そんなに映画好きな人、周りにいたっけ?と思いつつ開いてみると、大学時代の友人だった。

 

「俺もちょうど観たところ!偶然!」

 

へぇ、そんな珍しいこともあるのか。

この友人は大学が同じ学科で、学籍番号が近かったのでよく話すようになり、たびたび同じ講義を取っていた仲だった。

二十歳を超えたとき、せっかくだしお酒を飲もうという話になって、学生だし安いチェーン店でお祝いしてたら急に真剣な顔になるもんだから、私は色々察してしまった。

 

「これからも、私たちはただ楽しい関係でいたい。今日は帰ろう」

 

そう言った私を寂しそうに見つめた友人の顔を、今でもはっきりと思い出せる。
その後は案の定、疎遠気味になったけどSNSではたまに会話していた。

随分時間が経ったけど、なかなか残酷なことを言ったよなぁと今さらながら反省してる。
もし、あのとき友人の願いを受け止められるくらい余裕があったら、なんて考えてしまうのもバカバカしい。

本当に暇な時間というのは人を考えさせすぎちゃうなぁ。

 

ベッドでごろごろしてたら、また返事が来た。

 

「やっぱりオードリー・ヘプバーンは綺麗だよな。最後も2人にとって一番の幸せだし」

 

2人にとって一番の幸せ。

あの最後をそう捉えるのか。
私は少しびっくりした。

私にとっては寂しくて、切ない最後だと思っていたけど、確かにあの2人にとっては最善の選択肢だった。

映画の中だとしても、2人は現実的なほうを選んだのか。

私は、私と友人の関係を思い出した。
彼は私との関係を変えたいと思っていたが、あのときの私はそれを拒んだ。

でも、彼は私の意思を汲んでくれた。

あのときのあの選択肢は間違いではなく、最善だったのか。
そう理解できた。今になって。

罪悪感を感じていた私がアホらしく思えてきた。
難しく考えすぎてたのかもしれない。

私は友人へ直接連絡をした。

 

 

「今夜、オンライン飲みしようよ」

 

<2020年6月3日 13:44 noteにて>

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